02-2







「食う?」
「いらない」
「飲む?」
「いらない」
「読む?」
「もう読んだ」


沈黙が訪れる。

ブランコと、小さな滑り台と、砂場と、水飲み場。それと、今僕らが座っているベンチ。
住宅街に囲まれた場所にひっそりとある、誰もいない小さな公園。

進藤はまたゴソゴソと袋を探り、菓子の袋を開けようとして止め、また開けようとして止め、それを3回程くりかえして結局開けずに再びコンビニの袋へ乱暴に戻すと、
ふーっと大きな息をついて足を前へ投げ出した。
今日は夏日ですと朝の天気予報でも言っていたが、例年よりも2、3度気温が高いらしい。
街中も、半袖など薄着をしている人が目立った。
進藤も例にもれず、上は白い薄手のパーカー、下は膝までのパンツに、素足のままスニーカーを履いていた。

前に投げ出された白い足がやけに目障りな感じがして、目を逸らした。



僕の沈黙に堪えかねたのか、進藤が先ほどからチラチラとこちらの様子を伺っているのがわかる。






まったく。
何故「彼がいなくなる」などと考えたのだろう。
つい30分前まではその事で頭が一杯だったのだ。

全然。全くもって。至って普通に。まるで変わりなく。
ここにいるじゃないか。

一体僕の16日間は何だったんだ。


彼に、というよりもひたすら空回りをしてしまったような自分に呆れ果てて、深い大きな溜息が思わずもれた。
すると隣のその元凶はビクリと身体をびくつかせ、恐る恐る漸く僕の顔を覗き込んで一言言った。




「怒ってる?」

怒ってなどいるものか。確かに怒りもあったさ。つい先程までは。
でももうキミのその暢気な顔を見た途端にどこかへ吹き飛んでしまった。

「…呆れてる?」

ああ、呆れたさ。今回ばかりは心底呆れたさ。
キミに、というよりも僕自身にだ。忙しいスケジュールの中、何を必死になってキミのことを色々聞いて、
なんとか調整して月に1日か2日しか取れない休みを利用して何が悲しくて社のところなどに来たのだろう。
これを呆れずにして、どうしろというのか。

「……」

何故黙る。いい加減にしろ。
何か色々言う事があるんじゃないのか。
言い訳でもなんでもしてみろ。仕方ないから聞いてやる。

何で休んだとか。何で誰にも何も言わずに急にいなくなったのか。
何故大阪に来た。
棋譜を燃やせとわざわざ社に頼んだのは何故だ。
そもそもあの棋譜は何だ。
誰との棋譜だ。黒は君なんだろう? そんなことはわかっている。
白は誰なんだ。
君をここまで導いたのは誰なんだ。

それを。そんな大切なものを何故燃やす?
何があった?

言わなければわからない。少なくとも僕は。
キミが何も言わなくともキミの気持ちがわかるようならこんな苦労はしない。
キミだってそうだろう。
僕には言えないのか。まだ。
いつになったら話してくれる?

キミの本当の気持ちを。
キミの本当の気持ち。僕のことは?
僕のことは…そもそも何だと思って。



僕のことをどう思っているんだ。
キミは。





僕のことを。僕は。
僕は。
僕はキミが。











「ごめんな」














まただ。
また一言で。



キミのたった一言で、何故とかどうしてとか、怒りとか呆れとか疲れだとか。
僕の、君がいなくなってからの16日間だとか。


どうでもよくなってしまった。









キミがそこにいた。











それだけで、今の僕はもうよかったのだ。