02-7






「絶対無理だ!」
「絶対出来る!」
「絶対無理だ!」
「絶対出来る!」



お互いぜえぜえと肩で息をする。
今ので僕が今日「絶対無理だ」と言った回数は26回目だ。
つい先程まで涙をポロポロと零して泣いていたか弱い頼り無気な姿はどこへやら、今の目の前の彼は肩を怒らせ目をつりあげてぜえぜえと息をしながら絶対に譲らないという顔をしている。
一体どこから来るんだ、その根拠のまるでない自信は。

「……っ、…大体キミみたいに実家にいるくせにそうやって不摂生ばかりしているヤツが、
 どこをどうしたら独立できるなんて考えるんだ!」
「……っ、…そ、それはさあ」
「実家にいるくせに、キミが今まで対局に寝坊した数はいくつだ!?この4年間で!
 12回だぞ!12回!あり得るかこんなことが!」
「だってあれはお母さんがさあ」
「お母さんじゃない! 独立したら誰のせいにも出来ないんだぞ!
 大体去年のキミの連勝賞! 記録がかかってたんだぞ!
 何でストップしたんだ! 言ってみろ!」
「……ちこく…の不戦敗…」
「ほらみろ! だからキミは」
「違うってばー! あれは、仕方なかったの!
 ちょっと色々その日はあったんだってばー!」
「そんなのが言い訳になるか!
 寝坊はする、よく風邪は引く、不健康なものばかり食べる、どうせゲームとかして夜更かしはする!」
「何でそんなことお前が知ってんだよ!」
「キミを見てれば容易に想像がつくことだ!
 そんな自己管理すら微塵も出来なくて、一般常識もなくて、断固たる決意もないようななヤツが、
 どこを、どうして、どうやったら、一人暮らしなんて出来るんだーっ!!!」


ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ。
人気のない公園で若い男が二人、肩で息をしながらさながらコブラVSマングースのような形相で睨み合う。
本当にこの公園が寂れていて良かった…
そんなことを睨み合いながら頭の片隅で考えていると、突然彼がクルリと踵を返した。

「ちょっ…、待て! どこへ」
「帰るんだよ!!」

なんだ、社の家か。
ホッとして、彼のコンビニの荷物を(何故か僕が)持つ。
すると、社の家とは逆方向に歩き出す。

「おい、どっちへ…」
「駅! あっちだろ!」
「駅?」
「大阪駅! 東京に帰るんだよ!」

ちっくしょ〜今に見てろ! などと言いながら肩を怒らせたままズンズンと彼は歩いて行く。
僕はというとあまりの展開にさすがについていくことが出来ず、脳が耳から得た情報を処理して理解するまでにいつもの4倍、つまり2秒程ぼんやりと立ち尽くしてしまった。

「ちょっと待て! 荷物! 社の家にあるんだろう!?」
「あ、そーか」

クルリ。
逆方向にまた肩を怒らせズンズン歩いて行く。

今。
今彼はなんて言った?


『東京へ帰る』?





「お、おい」
「何だよ!」
「…その、…と、東京に帰るのか」
「だからそう言ってんだろ!」
「今?」
「今! そんで着いたらすぐ行く!
 お前もついてこいよ!」
「…ど、どこへ」
「オレのダンコたる決意を見せてやる!」
「だからどこへ!?」
「不動産屋だよ! バカ!!」


バ、バカとは何だバカとは!
というか東京へ帰る!?

いや、違う。それは一つ前の会話の話だ。
今のは。今の。


「不動産屋!?」






僕はその時初めて。

遠くでカラスが「アホ〜〜〜」と鳴くのを聞いた気がした。