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03-9
「………ん」
ふと顔を横に向ける。
つけっぱなしだったテレビが、自然の風景の映像を流していた。
ああ、番組放送が始まる前のヤツ……
優しい音楽と森の風景が延々と流れるヤツで、よけいな雑音が一切なくてオレは結構好きだった。
床に転がっているリモコンに手を延ばし、少しだけ音量を上げた。
この曲……いい曲…
なんだっけ。
前に、………が教えてくれた……
ああ、でもその時はお互い言葉がわからなくて困ったっけ。
帰ってきてから塔矢に教えてもらったんだった。
……塔矢。
塔矢は、オレをまるで暖めるかのようにオレを抱き締めて寝ていた。
オレは塔矢を起こさないように、そっと身体を動かした。
塔矢はピクリとも動かずぐっすり寝ている。疲れてたのかな…。
なんとか身体を起こす。下半身にぬるりとした感触が伝った。
「痛……」
声が掠れてる。
ソファーはめちゃくちゃに動いていて、それに引っ張られたのかソファーテーブルも激しく動いていて、オレが途中まで並べていたアイツとの棋譜はぐちゃぐちゃになっていた。
優しい音楽が流れる中、塔矢はオレの上でぐっすりと眠っている。
塔矢の寝息が裸のままのオレの胸をくすぐった。
あーあ、コイツ髪の毛ぐちゃぐちゃ。
塔矢の髪の毛がこんなに乱れてるの、初めてみるな。
綺麗に直してやろう。
オレはぐちゃぐちゃの頭のまま眠っている塔矢の髪の毛を、起こさないように出来るだけ手で優しく梳いた。
柔らかい、綺麗で真直ぐな黒髪。
気持ちいい。
もしも。
もしも、アイツに触れることが出来たならば。
アイツも、こんな感じの綺麗な髪だったのだろうか。
少しすると、塔矢の髪はすっかり綺麗になっていた。
塔矢はオレの胸の上で眠ったまま動かない。
なんとなく。
本当になんとなく、オレは塔矢の頭を優しく抱き締めて、塔矢の髪の毛に唇を寄せた。
しばらくそうしていると、オレはおかしくなってきて、クスリと笑ってしまった。
オレは普通に笑ったつもりだったのに、笑い声は何故か涙で崩れていた。
「………塔矢……
………………いい匂い………」
涙が零れる。
塔矢。塔矢。
確かに、確かにオレの中には今もあのひとがいるよ。
でも、もうそれはオレの中では本当に本当に大切で綺麗で決して忘れたくない幸せな『想い出』なんだ。
もう想い出なんだよ。
昔、オレの傍にはあのひとがいた。あのひとはいた。確かにオレの中にいたんだ。
あのひとがいたから、お前にも会えたんだよ。オレはそう思ってる。
それだけ大切なひとだったんだよ。
オレはね、塔矢。
もうそれだけで十分なんだ。
十分だと思わなくちゃいけない。
これ以上、望んじゃいけない。
オレはオレの『目的』を果たすことだけを望めばいい。
今のオレにはもうそれ以上は、駄目なんだ。
塔矢、あのね。
オレがお前をオレの中に入れる事が出来ないのは。
オレの気持ちをあげることが出来ないのは。
あのひとが今もオレの中にいるから、じゃあないんだ。
違うんだよ、塔矢。
オレはね………
…………………。
オレもお前のこと好きだよ。
でも、駄目なんだ。
絶対に。
絶対に駄目なんだ。
塔矢。
ねえ、塔矢。
聞いてる?
塔矢。
ごめんね。
to be continued
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