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04-02
「なんて顔してるんだ、お前」
「……すみません」
棋院の入り口でたまたま会った芦原さんに開口一番に言われた言葉がこれだった。
夏も終わりに近付きつつあるとはいえ、二日酔いにこの日射しはこたえる。
二日酔いでタクシー出勤なんて! と以前進藤を叱ったことがあったが、今身をもって当時の彼の気持ちがよくわかる。
身体や仕事のことを考えれば、車で行った方が正解だろう。
意地を張るのではなかった……。
棋院の入り口まで辿り着いた時はすでにフラフラで、今にも壁に手をついて座り込みかねない勢いだったのだ。
ああ、進藤が帰ってきたら。
帰ってきたらこれも謝らなければ。
「ホントだったんだなー」
「は?」
「いやあ、緒方さんからお前が昨日ベロンベロンに酔っぱらったって聞いてさ。
まさかーって思ってたんだけど。
お前でもそーゆーことあるんだなー」
「…はあ」
「なんかあったのか?」
何か。何か。
……なんだったか。覚えていない。
昨日、緒方さんに「飲みにいかないか」と言われて。
いつもなら断わるのに、どうして飲みにいったのかな。
覚えていない。
緒方さんはご存じだろうか。
「あの、緒方さんは?」
「緒方さん? あー、今日はこっちには来ないんじゃない?
直接仕事先に行くみたいなこと言ってたし」
「…芦原さんは、いつ昨日のこと聞いたんです?」
「さっき。ここ来る前」
「どこで」
「お前んち」
なんとなく膜がかかったような状態だった頭が一気に覚醒する。
思わず掴み掛かりそうになるのを押さえて芦原さんに詰め寄る。
今、今なんて。
アンタ、今なんて言ったんだ!?
「ななな、なんだよアキラ」
「話したんですか」
「何を」
「昨日のこと。父や母に」
「あ、ああ。『しょうがない子ねー』って言ってたぞ。
明子さん」
「こ」
この馬鹿!!!!!
もうアンタはホントに馬鹿だ!!!やっぱり馬鹿だ!!!!
馬鹿っっ!!!!!
大馬鹿野郎だぁーっっっっ!!!!!!
……あれ。
なんだか急にいろんなところの力が抜けた気がする。
力、というか重力そのものがなくなったような。
そんな訳あるか。地球というこの星から重力がなくなったら僕達人間は生きていけないじゃないか。
そもそも重力というのは……
いや……それどころじゃなくて……力が……入らない。
目の前が……真っ暗に。停電……?
あー…今停電になったら今日の指導碁が………今日は大事な……お客さんで……
………。
ごめんなさい……せんせい……
あしわらさん…
ごめん。最近の若者風に言うなら逆ギレだよね………
しゃべったのはあの白スーツだよね……
あの白スーツ、見た目は同じだけど冬と夏とじゃ全然作りが違うって知ってました……?
実はあれ、とんでもないトコに穴開いてるんですよ。
風の通り道みたいな………
あんなトコ通る風が可哀想………
ごめん……
ごめん……
今日は朝から謝ってばかりだな。
……しんどう……
ごめんね……
早く帰ってきて………
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