オレが物心ついた時からオレの傍にいて、オレの手を離さずに握っていてくれたのが、
あかりだった。





オレが覚えている一番古いあかりとの思い出は、理由は何だったのか忘れてしまったがオレが幼稚園で同じ組の子にからかわれて泣いているところをあかりが助けてくれた、というものだった。

それって普通逆だろう、と思う。

しかし、ガキの頃のオレは身体が他の子供よりも小さく痩せっぽっちで、おまけに泣き虫というどうしようもないヤツだった。
そういえば幼稚園もよく休んでいたっけ。今では信じられないが、とにかく典型的ないじめられっこだったのだ。
いつも泣いていたオレをあかりは慰めてくれた。

そういうと、あかりはさぞお転婆な女の子だったのだろう、というと、確かに元気は良かったがお転婆というほどでは決してなかった。
オレのことをからかっていた男子たちに、アイツは震えながら立ち向かい、オレを助けてくれたのだ。

それが、今も残っているあかりとの一番古い思い出だった。




その後もあかりとは小学校も中学も一緒で。
幼稚園の頃の反動か、小学校に入ってからはすっかりガキ大将のようになったオレに、アイツは呆れながらもオレの傍にいて離れなかった。
中学に入ってオレが囲碁部に入ればアイツも入ったし、オレが勝手な理由で囲碁部を辞めた時もアイツはオレを一言も責めたりしなかった。
その後もオレはいろいろあって、プロを辞めると言ったり続けると言ったりして、本当にアイツに心配ばかりかけていた。



それからあかりは高校・短大へと進学し、オレはプロの道へ進んだ。
今はお互い忙しく、オレが家を出たこともあって以前ほど頻繁に会うことはない。



時々会うと、なんとなく気恥ずかしかった。
そりゃそうだ。幼なじみとはいえ、若い男と女だ。
中2くらいまではアイツの方が高かった身長も中3では逆転し、今では10cmはオレの方が高く、アイツを見下ろす位置にいる。

オレはずっと一緒にいたせいで気が付かなかったけれど、あかりは綺麗だ。
容姿には疎いオレが見ても、アイツは可愛かった。
ガキの頃から変わらない茶色い大きな瞳も、長い睫も女の子特有の丸い頬も、その柔らかそうな細い身体も。
小さい頃は一緒にフロまで入ったのに。そう思うと恥ずかしくてたまらなかった。


あかりがアイツと付き合い始める前、オレは冗談めかして「お前、オレのこと好きなんじゃねーの?」などと言ってみたことがあった。
するとあかりは「自惚れないでよ!」と笑いながらオレの背中を殴ってきた。

そうか。そうだよな。アイツにとっちゃオレは『男』じゃないんだろう。
何せ人生の半分どころかほんとんどの時間を一緒に過ごしてきているのだ。
手のかかる『弟』みたいなものだろうか。
あかりに殴られてオレも笑ったが、ほんの少しだけ寂しかったのを覚えている。


そう、オレはアイツの『弟』で。
ガキだったオレには女心の微妙な機微なんてわかるはずもなかった。

あかりがオレを殴った後、小さな声で「今更」と言った言葉に、どんな意味が含まれていたのかなんて考えもしなかったのだ。







その後、あかりはひょんなことからオレの親友と付き合い始めた。
最初は驚きもしたし複雑な気持ちにもなったが、幸せそうなアイツの姿を見てオレは純粋に嬉しかった。
心の底から祝福した。
あかりやその彼氏からオレはよくノロケられたが、それすらもオレは嬉しかった。

あかりには幸せになって欲しかった。


アイツは、オレにとってすごくすごく大切なヤツなんだ。



















だって、今も昔もアイツだけなんだ。







こんなオレの傍に、理由も聞かず、想いも押しつけず、消えてしまいもせずに、
ただ、傍にいてくれたのは。





アイツだけなんだよ。











































なあ、あかり。

お前、今笑ってる?









































innocent world


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