05-4.1













『人生という名のカード、ライブカード』









よく聞き慣れた優しい声が、雨の降る街角に響く。
思わず私は振り返ってしまう。


大型電器店のディスプレイにズラリと並ぶ100インチはあろうかという大きなテレビ一杯に、私のよく知る顔が映っていた。
いくつも並ぶ、顔、顔、顔。


私と同じようにそのディスプレイを見ていた通りすがりの人たちが、私のよく知るその人の名前を口にする。
……不思議な感覚。
未だに慣れない。

テレビで見て、声を聞く度にドキッとしてしまうのだ。






だって、私は本当に小さい頃からこの人をよく知っている。
少しも変わってない。

ううん、少しは大人びたかしら。
…ああ、でもまたちょっと痩せたかな。

この前見たファッション誌にインタビュー記事が載っていて、身体の線が出てしまうタイトなジーパンとシャツを着て写真に写っていたけど、あまりにも細いのでびっくりした。
私より細いんじゃないかしら、と心配になった。
ちゃんと食べているのかしら。
どうせまたラーメンばかり食べてるんじゃないかな。


…でも。
今はちょっと『げーのー人』みたいだから、そんなの食べないのかな。



短大の友達がその雑誌を買ってきていて一緒に見たのだけれど、友達はひたすら「カッコイイ〜」だの「チョー綺麗〜〜っ」だの「マジ細ーい!」と大騒ぎ。
私はとてもじゃないけど、「それ、私の幼馴染みだよ」だなんて言えなかった。隣にいた久美子も同じだったようで、口をムズムズさせながら俯いていた。

私達は、こんなにもこの人のことをよく知っているのに。

でもなんだかそれは夢だったんじゃないのか、と思う程、この雑誌の中の写真は別人に見えた。





そう、私達は。
私達は物心ついた時からいつも一緒にいた。

家がご近所で、お母さん同士が仲がよくて。
幼稚園も、小学校も、中学も。ずっと一緒だった。

ずっとずっと傍で見ていた。
だから何でも知ってるの。


昔から背の順に並べばクラスで前から4番目、四列縦隊になれば一番前。
「オレだってたまには背の順で腕を前に伸ばしてぇよ」と文句を言っていたこと。

もともと小さな頃から小柄で痩せっぽっちで、お父さんもお母さんもお祖父さんもそんなに大きな人ではないから、きっと本人もそんなに期待はしていなかったでしょうけど。
でも小5の頃から一生懸命毎日牛乳を飲んでいたこと。(それは中2まで続いたのだけど、夏に1回お腹を下してから(しかもプロ試験中に)止めてしまった)

食べても食べてもタテにもヨコにも伸びなくて。
「もーいーよ、オレなんか」なんて拗ねていたりしたこと。




そして。

中3の夏頃に、急に変わってしまったこと。








急に身長が伸びて、あっという間に私は抜かれた。
気がついたら私が見上げていたのだ。
相変わらずその頃から細かったけど、もちろん私よりは全然肩幅も広くて、歩くのも早くて、力もあって。
私が日直で社会科の重たい資料を運んでいた時にたまたま廊下で会って、「持ってやるよ」と教室まで軽々と運んでくれた。
その時私のクラスの男子にはすごくヒヤかされたけど、私は少しだけ嬉しかった。
……でも当の本人はまるで興味がなかったみたいで、どうでもいいような顔をしてすぐに自分の教室に帰ってしまったけれど。


その頃になって、私は漸く気付いた。

昔は何ともなかったのに、今は傍にいるだけでドキドキした。すごく。



色素の薄い明るいグレーの瞳でじっと見つめられると、ドキドキした。
指導碁を打ってもらって、パチリと石を置く手がすごく綺麗でドキドキした。




でも、ドキドキする反面。

悔しかった。





どうして今までずっと一緒にいたのに、中3の夏に急に変わってしまったことに気がつかなかったのかな。
何があったのだろう。
一度聞いたことがあったけど、笑ってはぐらかされて、教えてもらえなかった。

誰が。
誰が変えたのだろう。

あんなにも。



悔しい。











あの時にはもうすでに、あなたの傍にいるのは私じゃなかったのね。













ね。











ヒカル。