06-10.5











『あんまり煙草吸い過ぎちゃ駄目よ』









「クソガキめ」

短くなった煙草を灰皿に押しつけ、再び新しいのを取り出して銜えた。
最後の1本だった。


箱を握りつぶして、部屋の中のゴミ箱に向かって投げる。
ラークの箱は、ゴミ箱にかすりもせずにポトリと音を立てて床に落ちた。


まったく。








火をつけて最初の煙をフーッと吐き出す。
マンションの玄関の扉が開く音がして、オレは外の方を見やった。
……あんまり下は見たくないんだがな。でもこんな面白いものを見逃す訳にいくか。


進藤がパタパタとアキラくんの元へと駆け寄っていく。
アキラくんは今にも抱きしめんばかりで、若干両腕を開いたりなんかして待っていたのだが、進藤は彼の前で立ち止まると「何あんな大声出してんだよバカ!」と同じくらいの大声で叫んだ。
するとアキラくんが「バカとはなんだバカとは!」とやり返す。進藤が再び「だってお前時間考えろよ!ご近所メーワクだろーがバカ!」と叫ぶ。「そんなこと言ったって、事態は急を要することだったんだ!」「だからって叫ぶことないだろバカ!」 
「またバカって言ったな!大体キミは…」





………馬鹿馬鹿しい。







お前ら二人とも馬鹿だ。










そんな馬鹿二人は、激しいやり取りをしながらマンションの敷地内を漸く出ていった。
マンションから出ても、二人は激しく何かを言い合っているようだった。

再び煙を肺の中に深く吸い込んで吐き出す。
なんだか煙草が妙に旨く感じる。何故だろうか。
なんとなく自分の顔がニヤけているのも感じる。
馬鹿かオレは。一人で。




あんな風に笑ったのは、いつ以来だったろうか。






「フン」




オレも大概馬鹿だな。




通りに向かって歩いていく二人を見る。
今は言い争いをやめ、静かに並んで歩いているようだった。
何を話しているんだろうか。

少しはオレに話したようなことをアキラくんに話しているのか、進藤。

……無理だろうな。









なあ、進藤。

お前の行きたい所というのはどこなんだ?
アキラくんが連れていってくれるかもしれない場所。
でも別れなくてはいけない場所。

お前の、『目的の地』。




それはおそらく、saiのいる場所──



















今のお前とアキラくんのように、二人でそうして並んでその地まで歩いていったとしても、お前達は別れなくてはいけないのか?

何故?















指で煙草を叩いて灰を落とす。フワフワと夜風に乗って、灰は星空を彷徨っていく。













でも、進藤。
わかっただろう。オレの弟弟子の凄さを。



アイツは確かにバカだが、本当に凄いんだぞ。
どこまでも真っ直ぐで、そして純粋で、綺麗で、汚れていなくて。

それはこの先に何があろうとも、決して変わらないだろう。



アイツはお前が考えている程ヤワな男じゃない。
ましてやそんなに甘い男でもない。
そう簡単にお前を手放すものか。
お前がその『目的の地』とやらに辿り着いて、お前が誰にも触れることの出来ない水の底に沈んで行こうとするのなら、アイツは何を犠牲にしても踏み荒らしても、お前を引きずり出しに飛び込んでいくだろう。


少しも汚れずに。



だからそんなに怖がるな。
怖がっていては何も始まらないんだ。

二人で打たなければ始まらない碁と同じだ。
触れあわなければ人と人は始まらない。

何も始まらないんだ。

そして強くて汚れていなくて、純粋で美しいアキラは、決して壊れずにお前を受け止めてくれる。













アイツは、オレが唯一本気で惚れた女の子供なんだ。

オレが保証してやる。


















アイツは、大丈夫だ。

大丈夫だぞ。










だから。











だから。


























進藤とアキラくんはそのまま並んで星空の下を歩いていき、次第に姿が見えなくなった。
なんとなくオレは二人の姿が見えなくなるまで、バルコニーで見送るなんてマネをしていた。

馬鹿馬鹿しい。








いかん。本当に酔っているのかもしれんな。
そういえばアイツ、あの話忘れるだろうな。
あれが口外されたらオレは塔矢門下どころか囲碁界から追放だ。

あんなことを他人に話したのは、初めてだった。
馬鹿だ、オレは。

酒に酔ったとはいえ……


















酔った勢いだろうか。

柄じゃないな、と思ったが。
二人が星空を並んで歩いていく様を見て。









『この先もずっとあの二人が一緒にいられますように』などと。











星に願いを、だと?
まるで少女漫画か昼間のドラマのようだ。
このオレが? 反吐が出る。










馬鹿馬鹿しい。
























































それでもその時のオレは、そう祈らずにはいられなかった。