06-11





「…………」
「…………」
「…………」
「…………」




緒方さんのマンションにいた時は、叫ぶ程色々話すことがあったのに、いざこうしてお互い落ち着いて見ると何を話したらいいのかわからなくなる。
自然と沈黙が流れる。
塔矢はオレの横でとてもムズカシイ顔をしていた。
……沈黙が重い。
次第にそれに耐えられなくなったオレは、なんとかその重さを突き破ろうと夜空に輝く星に縋るような気持ちで、塔矢に話題を振った。



「な、なあ、あの星座って何かな?」
「……何が」
「ほら、あのビカビカ光ってる星。あれって何か星座だよな」
「……デネブだよ。夏の大三角形のひとつだ。白鳥座だな」
「へー! 白鳥!」
「学校で習ったろ」
「んー…どうだったかなあ…」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」


……会話、終了。
再び沈黙。

駅までの道のりが遠く感じる。
クソ、やっぱり塔矢の言うとおりケチらずにタクシーにすりゃ良かったかな。







そんなことを考えていたら、今まで黙っていた塔矢が突然口を開いた。




「すまなかった」
「何が」





速攻でオレに返されて、ウッと塔矢が返答に詰まる。
ゴホン、と塔矢は何故か咳払いをして、しきり直すようにまた口を開いた。



「だって、僕はキミに本当に酷いことを」

「ホントだよ。おかげでオレ頭悪いくせにメッチャクチャ悩んじまったじゃんか。
 囲碁は打てなくなるし、週刊誌にあることないこと書かれるし。
 もー散々。……将来ハゲたらお前のせいだからな」

「…ごめん」

「いーよ、もう」










「だってオレも、お前のこと好きだもん」













オレがそう言うと、塔矢はまるで顔中の血が沸騰してしまったかのように真っ赤になって立ち止まり、俯いてしまった。
何だよ、お前。

ご近所中(緒方さんのだけど)に聞こえるような、あーんなデッカイ声で告ったくせにさ。
変なヤツ。







……ホント、バカだな。お前。










そうだ。お仕置きに少しからかってやるか。














オレは俯いたままだった塔矢の手を取ると、ガッチリと繋いで、駅に向かってズンズンと歩き出した。
すると塔矢は足が縺れて転びそうになりながら、焦ってドギマギとした感じで話しかけてきた。

「ちょっ…進藤!」
「なんだよ」
「誰かに見られたら」


何言ってんだ、今更。



「だれもいないって。こんな夜中に」
「また、週刊誌とかに」
「オレ、今負けてるからさー。そんな価値ないって」
「価値がないなんて! そんなこと言うな!」


塔矢は歩みを止めると、酷く真面目な顔をしてオレを見つめてきた。
まるで目の前に碁盤があるかのような、真剣な表情で。


「キミはキミだ。負けていようが、勝っていようが」
「……」
「僕の大切な人に変わりはないんだ」
「……」
「価値がないなんて、言うな」



変なことを恥ずかしがる割に、こーゆーセリフを臆面もなくサラッと言うんだよな。
どーなってんだよ、お前の頭の中身。



「……お前ってさ」
「何?」
「ホントバカ」
「なっ…」
「でも好き」




オレがまたそう言うと、塔矢は再び…いや、さっきよりももっと真っ赤になって俯いてしまった。
バカだな、お前。ホント、変なヤツ。

オレはまた塔矢の手をとって歩き出す。
塔矢は今度は何も言わずに、オレに手を繋がれたまま後をついてくる。






「手、大丈夫?」
「え?」
「絆創膏いっぱいしてる。…ホラ、昨日言い合ってる時お前」
「ああ……」
「ああ、ってお前。手は棋士の命だろーが」
「大丈夫だよ。ちょっと痛いけど碁石は持てる」
「…ホント、碁バカだな、お前」
「キミに言われたくないよ」
「ハハ、そうだな」
「……そういえば、和谷四段のことだけど」
「え」
「今日、会ったんだ。キミのことを酷く心配していた。そして謝りたいと」
「………」
「後で電話してあげるといい」
「………あかり…は」
「昨日、プロポーズしたそうだよ。彼女も喜んでくれたって」
「ホント!? ……っは〜〜〜〜……… 良かったぁ〜〜〜〜……」
「……何かキミ、僕がキミを見つけた時よりもよっぽど嬉しそうだな」
「当たり前じゃんかー。あかりも和谷もオレの大切な……
 …っていうか、そーいえば何でお前オレが緒方さんちにいるのわかったんだ?」
「あっ!!!」
「な、なんだよ」
「……忘れてた、緒方さんに預かりものがあったんだった…」
「何が」
「コレ」





塔矢が背広のポケットから出したのは、百合の花が彫られている使い古したライターだった。






……あーあ。
お前から受け取るの、緒方さん心中複雑だろうなあ。

結構顔に出やすいからな、あの人。すっげーしかめっ面するんだろうなあ。



想像したら可笑しくなって、一人でクスクスとオレは笑い始めた。
塔矢は「何が可笑しいんだ?」と言いながら怪訝そうな顔をした。
そんな塔矢を見てオレはますます可笑しくなって、塔矢の手を引きながらずっと駅までの道中を笑っていた。
塔矢も最初は訳がわからなくて、ムッとしたような顔をしていたが、諦めたのか最後には何も言わず、おとなしくオレに手を引かれて歩いていた。





繋がっている。



触れ合っている。






オレと塔矢の、手。


























触れ合っている。

































ねえ。
今だけ。


すぐに、すぐにまた。


またこの手を必ず離すから。









今だけ。


今だけは、こうして手をとることを許して。














お願い…









































































…なあ。



消える時、どんな気持ちだった?


悲しかった?


それとも笑ってた?






























笑ってたら、いいな。








































なあ。


お前、今笑ってる?









to be continued