06-6.5






進藤は血の気の引いた青白い顔をして、見ていてもわかるくらいにガタガタと震えだした。
どうしよう、どうしよう、と何度も言いながら。

まるで、恐怖に怯えているような様だった。





進藤、何故だ。

もう、お前の中でも答えは出ているじゃないか。
何をそんなに怖がる。
何をそんなに嫌がる。
何がそんなに駄目だというんだ。


何故。







「どうして…駄目なんだ?」
「………」
「どうして嫌なんだ?」
「………」


なるべく静かに、諭すようにして聞く。
それでも進藤は震えたまま答えようとしない。

進藤。


「………アキラくんと一緒にいると、『それだけじゃ足りない』と思ってしまうと言ったな」

何も言わないまま、進藤は首だけを動かしコクリと頷く。

「一度、彼と触れ合ってしまって。
 その後、ただ一緒にいるだけではいられなくなった」

再びコクリと頷く。薄い色の大きな瞳が、不安に揺れている。

「それを、なんという感情なのか。
 お前は気がついているはずだ」

不安に揺れ、彷徨っていた瞳が焦点を合わせてオレをジッと見つめる。











「お前は、アキラくんのことが好きなんだ」











震えていた進藤の身体が止まる。
瞬きもせずに、まるで不思議なものを見るかのようにオレの顔をジッと見つめていた。


「気付いているはずだ。
 それをお前は見ないふりをしているだけだ。
 彼に触れて欲しいのに、触れられるのが、触れるのが怖いからだ。
 違うか?」



静かにそうオレが尋ねると、今まで言葉を失ってしまたように黙ったままだった進藤が、目を見開いて大きく声を荒げた。


「怖いよ!
 怖いに決まってるじゃないか!
 一度触れちゃったら、オレはもう戻れないよ! 離れられなくなっちゃうよ!
 塔矢も、オレも!」

「進藤」

「そんなのイヤだよ! 絶対にダメだ!」

「進藤!」



オレもつられるようにして大きな声を出してしまい、なんとか進藤を落ち着かせようとする。
進藤は肩でハアハアと息をしていた。
星の光か月の光か──進藤の目元に光りが反射して、キラキラと輝いて見えた。






「……どうして。何故駄目なんだ」

もう一度オレは、進藤を押さえながらなるべく静かに尋ねた。


「……緒方さんは知らないからだよ」
「何を」

進藤の声が再び涙で崩れていく。







「……もし……
 離れられない、離れるわけがないと思っていたのに、離れてしまったらどうなるの?
 離れなければならなくなったら、どうするの?
 そうした時に、ひとがどうなるのか知ってるの?」

「…………」

「壊れちゃうんだよ。
 心のどこかが一緒に壊れてなくなっちゃうんだ。
 そこだけごっそりと、抜け落ちたみたいに」



涙をポロポロと零しながら、無理に作った笑顔になって進藤は続けた。



「オレは、そうなんだよ。
 オレは壊れてるんだよ。どこもかしこも。
 欠陥品なんだ」












「オレが」

「オレが塔矢に触れることが──
 塔矢の想いを受け入れて、オレの想いを伝えることが出来ないのは」










「オレは、オレは塔矢にオレみたいになって欲しくない。
 オレみたいになっちゃ、絶対にダメなんだ」
















オレは不覚にも──
暫くの間、言葉を発することが出来なかった。

涙を零しながら、笑顔を作り、月の光を浴びて自分を「欠陥品だ」と言う進藤。

綺麗だ、と思った。














でも何故。

いつか離れてしまうのが怖いからか?
そうしたことによってアキラくんが壊れてしまうのを防ぐため?

何故だ。
何故離れなければならない。一緒にいればいいじゃないか。
オレは、お前たちが離ればなれになるようなことがあるとは思えない。
何があったとしても。

たとえお前がまた逃げていなくなったとしても、アキラくんは地の果てまで追いかけて捕まえるはずだ。

そして、お前たちが。
お前たちが囲碁を打ち続けている限り、何があってもお前たちは離れることなどない。

そしてお前たちはどんなことがあっても決して囲碁を捨てることなど出来ないはずだ。
他の何を捨ててしまったとしても。


たとえお互いを捨てたとしても、囲碁が必ずお前たちを繋げてくれるだろう。









何故だ、進藤。















「オレには………」






暫く呆けていたオレを無視して、進藤は再び口を開いた。
流れ続けていた涙は止まり、とても静かな表情をしていた。


先程までの何処か彷徨う視線ではなく、今度はしっかりと──遙か遠く──前を見据えた力強い視線で、話始めた。









オレがいる場所などよりも、ずっとずっと先を見つめて。