09-2






「──……」

「気が付いたか」






……長い夢を見ていた気がする。
酷く頭が重い。

重たい頭を何とか声のする方へと動かす。
すると、オレの目に飛び込んできたのは、半年ぶりに会う姿──。


「……永夏」
「お前、倒れたんだぞ。オレの顔を見るなり」


ああ、そういえば。
ボンヤリとしていた頭が漸く起きて、目の前の霧を晴らしていく。

塔矢とケンカして秀英の叔父さんの家に来ていたオレは、秀英と話している最中に永夏が飛び込んできて、オレの名を呼ぶ永夏の声を聞いて。
そしてその後、意識が遠くなったのだ。


遠いキラキラとした日々を思い出して──。


そうか。
永夏の目には、オレが永夏の顔を見て倒れたように見えているんだな。
どうりで目の前の永夏がやたらと仏頂面をしているはずだ。

オレは思わず、永夏の顔を見てクスクスと笑ってしまった。
そんなオレの様子を見た永夏は、ますますムッとした顔になってオレを睨みつけてきた。

「何がおかしい」
「ううん、ごめんごめん」
「まったく。どれだけ心配したと思っているんだ」
「アハハ、ごめんね」
「このオレが、どれだけ──」

永夏はそう言いながら、横になったままのオレの顔へといつの間にかに距離を縮め、オレのすぐ目の前にその綺麗な顔を寄せていた。
ビックリしたオレは、慌てて永夏を押しのける。

「……なんだ。人の顔を押しのけて」
「……んもー。相変わらずだな、永夏は」
「ふん。お前に言われたくない」
「……そういえば、秀英は?」
「アイツは別の部屋にいる。アイツなりに気を遣っているんだろう。
 オレとお前に」
「………」

思わずオレが黙ってしまうと、永夏はフウと溜息をついて、椅子の上で組んでいた長い足を組み直した。
そして、改めるようにして、オレの顔をジッと見つめた。
なんとなく居心地の悪くなったオレは、横になっていたベッドからモゾモゾと起きあがり、横目で様子を窺うようにチラリと永夏を見た。


相変わらず綺麗な顔してるな。
睫長いし。
足も長いし。
髪も長いし。

……髪の長さは塔矢には負けるか。










塔矢。
どうしてるかな。


怒っているだろうな。








塔矢。











「ヒカル」


永夏が低い声で、オレの名前を呼ぶ。
その声には、明らかに苛立ちが込められていた。
──まるでオレが、永夏を前にして塔矢のことを考えていたことを、見透かしたかのように。

突然の永夏の呼び掛けに、驚いたオレはビクリと身体を揺らしてしまう。


「な、なに」
「……何を考えてた」
「べ、べつに。永夏には関係ないし」
「………」

永夏は、再びその切れ長の綺麗な瞳で、オレをジッと見つめた。
オレは永夏に見つめられるのが苦手だ。
心の中を何でも見透かされてしまいそうだからだ。

オレの、こんな薄汚れた心の中を。



──そんな綺麗な瞳で、そんな汚い所見ては駄目だよ。

永夏。






「──まあいい」
「………」
「お前とこうして会うのも久しぶりだしな。言い争いはしたくない」
「………」
「春の北斗杯以来か。半年ぶりだな」
「………」
「聞いたぞ。タイトルを一つ獲ったそうだな」
「……うん」

オレが小さな声でそう頷くと、永夏も小さな声で「そうか」と言って再びフウと息をついた。
そして、組んでいた足を解き、ベッドの上に座っているオレのより近くまで顔を近づけて再び口を開いた。

「……何故オレが日本に来ているのか、知っているか」
「……? ううん」
「秀英が日本の叔父の家に行くというので、無理矢理ついてきたんだ」
「………」
「お前に会うために」

オレは思わず、永夏の言葉に引っ張られるようにして俯いていた顔を上げた。
すると、ジッとオレのことを見つめている永夏の綺麗な瞳と目があった。

一旦目があってしまうと、まるで吸い寄せられた磁石のように、離すことは不可能だった。
綺麗な黒い瞳に、オレは吸い込まれそうになる。



「……お前に会って、確かめたいことがあるんだ」
「確かめたい、こと」
「半年前の北斗杯のこと。オレとお前はエキシビジョンで対局したな」
「………」
「その対局が終わった後に、お前がオレに対して言った言葉」






「オレは、その言葉の意味を聞きにきたんだ」